小児の屈折異常(近視、遠視、乱視)
小児眼科医として、診察する患者様の数で圧倒的に多いのは屈折異常になります。
順を追ってわかりやすく説明したいと思います。
まずその前に眼球の構造について説明します。
眼球はたまというだけあって球形をしていますが、完全には球形ではありません。
成人男性において眼球の前後径(角膜頂点〜網膜)は約24mmです。
新生児では約16mm、5〜6才児では約22〜23mmです。
24mmというのは10円玉の大きさとほぼ同じであり、16mmは1円玉より少し小さいです。
新生児の眼球の重さは成人と比べて1/4です。
体重は生下時3.5kgとすると約1/20となり、赤ちゃんの眼球の体重比は成人の5倍です。
赤ちゃんの目が大きくてかわいいのはそのためです。
もう一つ、人間の眼球はカメラと構造が似ています。
レンズは角膜と水晶体、絞りは虹彩、調節は毛様体、フィルムは網膜に相当します。
それでは屈折異常について説明します。
1)正視(emmetropia)
まず成人の眼で考えます。
正視というのは屈折異常が無い状態を言います。
屈折状態に異常が無いということは、遠方から来た平行線(像)が角膜、水晶体、硝子体を通過して網膜の中心である黄斑部という場所にピンポイントに結像する状態を言います。
正視の場合には網膜に異常が無い場合には視力は1.0〜1.2出るのが普通で、両眼では1.2〜1.5出る人も珍しくありません。
この状態であれば矯正眼鏡は必要ありません。
但し、年齢が40才を超えると毛様体の調節力が減少し、近方視において眼鏡が必要になりますが、これは別の項で詳しく説明いたします。
2)近視(myopia)
近視は私のような小児眼科医が診察する患者様の圧倒的多数を占めています。
近視にはかなり人種的に差があり、日本人、中国人などの東洋人においては60〜70%が近視であると報告されています。私の留学経験より、白人種における近視は東洋人種より低く、10〜20%と言われています。
これは正確なデータが得られませんが、黒人種も少ないと言われています。
近視とはどういう状態なのか?もう一度眼球モデルを思い出してください。
正視の場合は遠方からの像が網膜上の黄斑部に結像する訳ですが、近視の場合には遠方からの像が網膜の前方で結像する場合をいいます。
症状としては遠方視力の低下が認められますが、近方視力は良好です。
日本では小学生は毎年5月に視力検査を行いますが、健康診断で視力低下を指摘された方の90%以上は近視によるものと言われています。
ではどうして近視は起こるのでしょうか。
多くの場合は細かいものを見すぎたために、毛様体の屈折過剰が起こり、その結果、眼軸長の延長が起こります。
眼軸長の延長1mmにつき約3ディオプトリ—の近視の進行が起こります。
1ディオプトリ—の近視は視力は0.2〜0.3となります。
1年間に1ディオプトリ—の近視の進行は珍しくありません。
近視になった場合、どのようにしたらよろしいのでしょうか?
私は裸眼視力が0.5以下になった場合には教室のみ、視力が0.1以下の場合には常に矯正眼鏡を使用することをおすすめしています。
近視の薬物療法というのはあるのでしょうか?
医師によってはミオピンなどの点眼を使用する場合もありますが、近視の進行に影響があるというエビデンスがないため、私はミオピンは使用していません。
近視の矯正には凹レンズの矯正レンズを使用します。
矯正眼鏡は完全矯正することはしないで、片眼0.8位にして、両眼で1.0〜1.2にするのが良いと思います。
ここで重要なのは学校検診で視力不良を指摘されたとしても、いきなり眼鏡店で眼鏡をつくるのはやめて下さい。
眼科医を受診して眼鏡処方を取得し、それをもって眼鏡店に行って下さい。
視力低下が近視以外の原因で起こっていることもありえるからです。
コンタクトレンズ、オルソケラトロジー、レーシックについては眼科の先生に相談して下さい。
眼鏡を作ってからも3〜6ヶ月に1回視力をフォローしていくことは大切です。
次に近視の強さについて述べたいと思います。
近視を矯正するのには凹レンズが必要です。
凹レンズは平行光線を外方に屈折します。
1メートルの距離で1mm外方に屈折するレンズの力を1ディオプター(diopter)と言います。
近視の強さには矯正するレンズのディオプター数で表し、凹レンズはマイナス、凸レンズはプラスで表記します。

弱度近視:-3.0ディオプター以下の近視です。
3ディオプターの近視の人の裸眼視力は0.1前後です。

中等度近視:中等度近視は-3.0ディオプター〜-6.0ディオプターの近視です。
この程度の近視が最も多くなっています。

強度近視:強度近視は-6.0ディオプター以上の近視です。
裸眼視力は0.05以下で日常の生活にも不自由が生じてきます。
近視がこの程度強くなりますと、眼球軸が延長することが多く(多くは27mm以上)病的近視とも言われ、網膜、硝子体疾患を発症することも多く、定期的に専門医の検査を受ける必要があります。
3)遠視(hyperopia)
遠視という語句は近視を比較して、その意味が理解されていないと思われます。
「遠視の人は視力が良い」とよく言われます。
これは間違っていませんが、遠視を正しく説明するものではありません。
ここでもう一度眼球の構造を思い出して下さい。
眼球は前後径は約24mmです。
近視は遠方からの像が網膜の前方で結像する状態であると説明しました。
遠視とは遠方からの像が網膜の後方で結像する状態を言います。
網膜の後方には脂肪組織しかありませんので、実際には黄斑部には焦点のぼけた像として知覚されます。近視は遠方は見にくいが、近方視力は一般に良好であると述べましたが、遠視はどうでしょうか?
遠視では弱い遠視では遠方は比較的視力が良好であることが多いのですが、近方では調節作用が必要なので、視力が落ちることが多いです。
小児に絞ってお話しすると、小児は成人と比較してやや遠視気味のことが多く、遠くの視力はやや不良の場合、近方視力が更に悪くなります。
小児における遠視の診断に比較的むずかしいのですが、字の覚えが遅い、細かいことを好まないということがサインになります。
2才前後で小児が物を見るのに興味を示す年齢になった時の眼の位置が内斜することで発見されるのことが最も多いです。
このような場合には調節麻痺剤点眼下において、正確にどの位の遠視が存在するのか確定し、必要であれば眼鏡装用ということになります。
このように小児における遠視は近視と比較して頻度は少ないものの、弱視、斜視などを引き起こす原因となりますので、小児眼科医にとって注意すべき問題です。
健常な視機能を得るためには適切な検査、眼鏡処方、視能訓練は必要になります。
近視の場合は近方視力が通常良好なため、弱視をなることはそう多くはありません。
遠視の場合は矯正レンズは凸レンズであり、レンズの強さはプラスで表されます。
近視と同様に、+3.0ディオプトリ—以下は弱遠視、+3.0〜+6.0ディオプトリ—は中等度遠視、そして+6.0〜の遠視は強度遠視として分類されています。
遠視による弱視については「弱視」の項をご参照下さい。
4)乱視(astigmatism)
乱視も遠視と同様に、よく耳にするけれど実際にどういう状態を言うのかわかりにくい状態です。
乱視の場合は近視、遠視と違って眼球を正面より見て頂きたいのです。
眼球は球体(sphere)と考えられるのですが、ボールベアリングのように完全に球体ではありません。
まず眼球を正面から見ますと角膜があります。
角膜は直径12mmで、厚さは0.5〜0.7mmでその屈折力は42〜43ディオプトリ—であり、眼球全体の屈折力60ディオプトリ—の約70%です。
屈折力は角膜の上下、左右、斜め方向で測定できます。
角方向(径線といいます)にて屈折力が全く同じ場合は乱視はゼロということになりますが、乱視が全くゼロという方は非常に珍しく、私の感覚では1000人に1人位です。
小児の乱視について述べてみますと、小児の場合、水平方向(0⇔180°)の屈折力が垂直方向(90⇔270°)と比較して、屈折力が弱いのが普通です。
わかりやすく言えばラグビーボールを横に置いた形であり、これを直乱視(with a rule astigmatism)と言い、これが約80%を占めます。
逆に水平方向の屈折力が垂直方向より強い場合、つまりラグビーボールを立てた状態の場合、倒乱視(against a rule astigmatism)と言い、12〜13%を占めます。
後は数は少ないですが、屈折力が強い径線が斜め135°(又は45°)方向にあり、これに対して直角の反対側45°(又は135°)方向に弱い径線(通常180°離れている)がある場合は斜乱視(oblique astigmatism)と言います。
さて、乱視には屈折力の強い径線と弱い径線があると述べましたが、それぞれ2カ所で像を結像することであり、一カ所で結像することはありません。
つまり結像点が二つ(前焦点と後焦点)あるわけですが、二つの結像点が網膜の前方にある場合は近視性乱視(myopic astigmatism)、二つの結像点が網膜の後方にある場合は遠視性乱視(hyperopic astigmatism)、一方が網膜の前方、一方が網膜の後方にある場合は混合乱視(mixed astigmatism)と言います。
乱視と弱視の関係は複雑なところが多いです。
まずは弱視の項をご参照頂き、不明な点は主治医にお尋ねください。
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