立体視について
ヒトには左右対照的な位置に2つの眼球があり、網膜で知覚される像も2つであるのに、両眼開放下で知覚される像は1つであり(両眼単一視, binocularsingle vision)、それも3次元的に知覚される、いわゆる立体感を伴って見えるのが普通である。立体視(stereoscopic vision)は両眼の網膜で知覚された像が、視神経、視交差、外側膝状態、視放線、そして視中枢を含む視覚ループにおいて処理されて、其の結果、同時知覚(simultaneous perception),融像(fusion) をもとにして成立する最も高度な両眼視感覚である。
立体視についての記述で最も古いのは1838年のWheatstone よるものである。Wheatstoneは「網膜に投射された2つの異なった像により、3次元的な視知覚を得る」と報告している。両眼の網膜像の少しの違い(網膜像ずれ) が立体視の条件である事を、すでに19世紀前半に提唱していた事は驚くべき事である。Wheatstoneはこの原理ももとにしてstereoscope を考案している。
立体視は最も高度な両眼視機能であり、良好な両眼の視力、同時知覚が可能なであり、融像が可能な事が前提になる。その上でPanum の融像圏(Panum’s fusional area)の範囲内で、両眼網膜にて知覚された,水平方向にわずかに異なる網膜像により、網膜像ずれ(retinal disparity)を生じ、これが元になり、知覚される3次元的感覚である。
では立体視は両眼視が存在しなければ起きないのであろうか?単眼でもいくつかの手がかりにより立体感を知覚する事が可能である。それらを単眼性の手がかりmonocular cue という。Monocular cue には1. 相対的な大きさ(relative size)、2. 重なり(Interposition), 3.linear perspective(線形的遠近効果),4. areal perspective(風景的遠近効果), 5.物体の明暗(light and dark)、6.単眼視による動的パララックス(monocular movement parallax)などがある。正確な立体視測定にはこのような単眼視による影響を出来るだけ除かなくてはならない。Monocularcue の中で1.の「相対的な大きさ」とは、遠方にあるものは小さく見え、近方にある対象物は大きく見え、其れにより遠近を判断する事である。2.の「重なり」は、対象物が重なっているときには、前方にある対象物が近くの知覚され、後ろの物体がと遠方に知覚され事を意味する。3.の「線形的遠近効果」とは例えば、線路のレールを見ると、2本のレールが遠方に行くに従って間隔が狭くなってくる事により、遠近を知覚する事を意味する。4.の「風景的遠近効果」も同様の手がかりにより遠近を知覚する。5.の「物体の明暗」は物体のどの部分が暗くて、どの部分が明るいという事から遠近を判断するものである。6の「単眼視による動的パララックス」はあまり聞き慣れない言葉であるが、パララックスとは単眼である点を固視した時、その状態で頭を動かすと、固視点より前方にある者は頭の動きと逆の方向に動き、固視点より前方にある対象物は頭の動きと同じ方向に動くと言う現象で、其れにより位置の情報を得るものであり、自身が木々の多い森に入った時などを想定すると考えやすい。
Wheatstone 以後1960年代までの立体視の研究は主として立体視の限界と両眼単一視との関連に注意が注がれた。その時代の研究者にはPanum, Ogle, Hering,Amesなどがあげられる。特に英国ビクトリア朝末期において、数々のstereoscope が考案され、娯楽のひとつであったとされている。
それ後、現在に至る立体視機能の研究において特に重要なのはJuleszによるrandom dot stereogramの考案である。Random dot stereogramはその他の立体視機能検査法と異なり、上記の単眼性てがかりの影響(monocular cue)を受ける事が少ないと考えられている。Juleszは2枚の全く等しいrandom dot stereogram のプレートをstereoscopeで観察した場合には一様の平らなパターンしか見えなかったが、2枚の中央の小さな四角の部分のrandom dotをわずかに動かした状態,再び観察すると、その部分は表面から浮き出しているように見えるのを発見し、これを“Cyclopean perception” と称した。その後このRandom dot stereogram を使用した立体視測定法が数多く製造されている。
いうまでもなく立体視機能検査は小児眼科領域において重要な検査法となっている。その種類も数多く存在するが、今回は一般外来で比較的多く使用されている立体視検査法をおもに3種類に分けて紹介したいと思う。
また立体視の発達の大きな障害となる要因のひとつで、不同視(anisometropia) から生じる不等像視(aniseikonia)についても簡単に述べたいと思う。
Ⅰ.中間〜遠距離を想定した定性的立体視検査法
a.特別の器械を使用しないで行える定性的立体視検査法
 1.Two pencil method
 2.輪とおし法
b.特殊な器械を使用した定性的立体視検査法
 3.大型弱視鏡(major amblyoscope)
 4.位相差ハプロスコープ
 5.Pola Test
 6.三かん法
Ⅱ.近見距離を想定した、定量的立体視検査法
 7.Titmus Stereotest
 8.Randot Stereotest
 9.TNO Stereotest
 10.Lang Stereotest
 11.FrisbyStereotest
 
Ⅰ.中間〜遠距離を想定した定性的立体視検査法
a. 特別の器械を使用しないで行える定性的立体視検査法
1.Two pencil test
この方法は日常的に簡単に手に入る者を使用して、定性的に立体視の有無を検査する代表的な方法である。この方法はスイスのLangによりより考案されたため、Lang twopencil testと呼ばれる事が多い。この検査はまず検査距離30~40cmにおいて検者が鉛筆を被検者の眼の高さに、水平方向に保持し(鉛筆の先が内側に来るようにする)、被検者はもう一本の鉛筆を同じように先端が削られている部分が内側に来るように保持する。立体視の検査は検者が保持する鉛筆の先端に、被検者の鉛筆の先端をつけるようにする事が出来るかどうかで判定する。ここで注意しなければならないのは被検者が2本の鉛筆を上から見ないようにする事である。この場合にはmonocular cue の混入が生じるからである。Lang two pencil testで測定可能な立体視は3000-5000 sec.arcであると推定される。Lang two pencil testを使用した報告は多くないが、Nongpiur とSharma, はTitmus Tereotest, Randot Stereotest, と比較して健常者、両眼視機能に異常がある症例を検査し感受性(Sensitivity), そして特異性(Specificity)ともほぼ同等の値を示したと報告している。そしてLang two-pencil testは立体視機能検査法,特にに立体視のスクリーニングに適しているのではないかとしている。
2.輪通し法
輪通し法とは大まかな立体視の存在の有無を調べる方法であり、定性的な方法である。測定方法は極めて簡単であり、まず針金などで先端を曲げ、直径1〜2cmの輪を作る。またもうひとつ直線の針金を用意する。これを児がそれぞれ両手で眼の高さの位置に保持し、眼前30-40cmの検査距離で、直線の針金の先を、先端が円のなった針金の中を通すことが出来るかどうかを調べる。両眼開放の状態と、片眼に遮蔽をした状態で検査を行い、それぞれの結果を比較する事により、大まかな立体視の存在の有無を調べる。
この二つの検査法は特別な装置を必要としないという利点はあるが、定量情報を得られないのが欠点といえる。
b.特殊な器械を使用した定性的立体視検査法
3.大型弱視鏡(major amblyoscope)
大型弱視鏡は19世紀後半に英国のWorthによりその原型が造られた。その後1958年にはStanworthにより更なる改良が加えられた。最も多く使用されているのは、英国のClement Clarke 社製のものである。両眼視の検査を行う上で最も重要で、広く行われている検査法といえる。大型弱視鏡の構造は1.照明部、2. スライド挿入部、3.反射鏡、そして4.接眼部よりなっている。接眼部には+6.0~+6.5Dのレンズが組み込まれており、これにより、検査距離5~6mを想定している。大型弱視鏡においてはそのためにデザインされたスライドを使用して,非常の多様なる検査を行う事が出来る。点滅法による, 他覚的斜視角の検査、そして両眼視の検査が可能である。両眼視の検査法としては, 斜視が存在し手も、両黄斑部に像を投影できる事により、同時知覚(simultaneous perception), 融像幅(range of fusion)、また特殊なスライドを使用する事により、網膜対応の検査も行う事が出来る。立体視検査については大まかな立体視(global stereopsis)の測定が可能であるが、立体視の値については明確にされていない。
4.位相差ハプロスコープ(phase difference haploscope, PDH)
位相差ハプロスコープは1960年代にドイツのAulhorn により考案された空間知覚測定装置であり。その装置自身も大きく、また検査場所も大きいので、その使用は大学医学部眼科など施設に限られている。その構成は1台のハプロスコープと2台のプロジェクターよりなっている。ハプロスコープには高速で回転する扇形の羽がついている。ここで重要なのは、右眼と左眼の回転する速度は同じでも,その位相が90度ずれている事である。そして2台のプロジェクターは被検者の後方左右から前方に種々のズを投影する。そしてこの2台のプロジェクターも高速で回転する装置がついている。被検者後方右側のプロジェクターの回転とハプロスコープの回転の位相は同調しており、左も同様である。従って右側のプロジェクターで投影された像は右眼でのみ見る事が可能であり,同じように左側のプロジェクターで投影されて像は左眼でのみ見る事が可能である。更に3台目のプロジェクターにより、風景を前方に投射する。これはどちらの眼でも見る事が可能であり、これにより、より日常に近い状態を生み出す。このPDHは空間視ハプロスコープとも言うべき装置で、両眼視機能、大まかな立体視機能、そして不等像視の測定が可能である。PDH については粟屋、三宅らが報告をしている。その装置が大きく,高価で、複雑である事、それに伴って検査の場所を必要とする事により、空間における両眼視、立体視の研究装置であり、小児眼科への臨床応用は限られていたと言える。
5.Pola Test
Zeiss Polatest Polatestは1958年にCarl Zeiss 社により開発された遠見時の両眼視機能の測定装置である。検査距離は5mであり、名前に示すごとく偏光眼鏡を使用して両眼視を分離して、各種の検査を行うものである。この検査法により、斜視、斜位、両眼視の検査を行う。特に斜位の検査、同時視の検査にはすぐれている。立体師の検査も可能であるが、これは大まかな立体視の検査となる。検査用スライドは両眼視検査用、眼位検査用、視力検査用の3種類のスライドがある。両眼視用のスライドを使用して不等像視の検査が行えるのも大きな特徴である。だだし不等像視の検査は2段階で3.5% と7.0% のみである。 Polatestは1958年の発表以来Zeiss 社により多くの改善、改良が行われているが、この記述はoriginal のモデルについてである。
6.三杆法
三杆法は日常視における立体視-深径覚を定性的に調べる測定方法である。この方法は特殊な車両を運転するのに必要な第2種運転免許の試験において行われている。この検査は深視力計(Kowa社製) を使用して行われる。被検者が測定器をのぞくと、3本の棒が等間隔に立っているのが見える。3本の棒のうち2本の棒は被検者から同じ位置に固定されている(通常2mの位置)。そして中央の棒が一定の速さで(運転免許試験の場合には秒速)固定された2本の棒の前後に動くようになっている。被検者は中央の棒が動くのを注視しながら、3 本の棒が平行になったと感じた時にボタンを押す。我が国の運転免許試験においては中央の棒と左右の棒との距離が平均2cm 以内の場合に合格と決められている。
Ⅱ.近見距離を想定した、定量的立体視検査法
7.Titmus Stereotest
このTitmus Stereotest(Stereo Optical Company)は世界中でもっとも広く使用されている立体視機能検査法である。Titmus StereotestはVectographic methodを使用している。両眼視機能を分離するのには偏光フィルター眼鏡を使用する。この検査方法は3つの部分よりなっている。各図形はそれぞれ異なった像のずれを有している。最もずれが大きいのが右頁の蠅(fly)であり、立体視は3000 sec.arcに相当する。被検者は蠅の羽を親指と人差し指でつかむように指示される。それが可能な場合にはFly (+) と記載する。次に左頁下の動物(animal)に移る。A,B,C それぞれ5種類の異なった動物が示したあり、その中で前に飛び出しているかを述べる。A,B, C それぞれに対応する立体視の値は400, 200, そして100 sec. arcである。記載方法としては全部正解した場合にはanimal 3/3, A しか正解しない場合にはAnimal 1/3 と記載する。最後の検査は左頁上のCircleである。これには1〜9までの群があり、各群には4つの小円が含まれており、その中の一つが像のずれを有しており、前に出して見える。このCircleでは1群より開始して、正解している場合には番号順に先に進み、立体視を識別できた最もずれの少ない群の値で決定する。群1~9に相当する立体視の値は、800, 400, 200, 140, 100, 80, 60, 50, そして40 sec.arc である。被検者が第7群まで正解し、第8群で不正解であった場合にはCircle 7/9と表記する。これによりこの被検者の立体視は60 sec.arcである事がわかる。
このTitmus Stereotestは広く使用されている立体視機能検査法であり、またこの方法は比較的検査が容易であるが、名古屋大学の粟屋らの報告では、Titmus Stereotest のCircle 1-4 つまり800~140 sec.arcまでは単眼でも識別可能であり、良好な立体視というのには少なくともCircle 5/9 すなわち、100 sec.arc以上である事が必要としている。また測定できる最高の立体視の値が40 sec.arc であるのは他の測定方法と比較してやや低いと言う考えもある。最近ではCircle 10を追加して、20 sec.arcまで測定可能なversionもでている。
8.Randot Preschool Stereoacuity test
Randot (preschool) Stereoacuity test はJuleszの考案したRandom dot stereogramを使用した幼児—小児時期における立体視測定法である。これはBirch により考案されている。これは3組の2つのプレートより構成されている。左のプレートには8種類の種々の形状のものが絵が枯れており、右のプレートには同じパターンがrandom dot stereogram の中に描かれている。この検査を行うのにはTitmus Stereotest 同様に偏光眼鏡が必要である。Test 1は立体視200~100 sec arcを測定し、Test 2は立体視60~40 sec arcを測定し, そしてTest 3はglobal stereopsisの800~400 sec.arc を測定するような構成になっている。またこの方法の幼児用にデザインされた方法もある。
9.TNO Stereotest TNO 法
TNO 法はオランダ国内の国立応用科学研究所(Dutch Applied Science Institute) により開発された立体視機能検査法でJuleszの考案したRandom dot stereogram を使用している。両眼視機能を分離するのには赤—緑のフィルター眼鏡を使用する。TNOは7枚のプレートより構成され、測定可能な立体視は検査距離40cmにおいて15~480 sec.arc である。7枚のプレートはプレート1~3までが、おおまかな立体視(global stereopsis) を測定するもので、プレート4は抑制(suppression) の検査、そしてプレート4-7が高度な立体視を測定するように作られている。TNO法による立体視測定値とほかの測定値と比較すると、TNOの値がやや低く報告されている事が多い。その理由としては水平方向のずれを利用した方法に比較して、Random dot stereogram の識別がより困難なためではないかと考えられている。
Momemi-Maghadamらは174名の医学部学生において、TNO stereotest とTitmus Stereotestの比較を行った結果、TNO では76.7 sec.arc, そしてTitmusでは40.7 sec.arcであったと報告している。
10.Lang-Stereotest
Lang-StereotestはJulesz により考案されたrandom dot stereogram とHess により考案された格子状円柱レンズの技術が組み合わされている。格子状円柱レンズは眼科医であり生理学者であるHess (1949年ノーベル賞受賞)により1912年に発明された。Lang-Stereotest のプレートのある部分には小さな平行な円柱レンズの帯により種々の形が描かれている。これまでのより一般的に使用されてきた立体視機能検査法とことなり、Lang-Stereotest は両眼視分離の眼鏡を必要としないため、検者は被検者の眼の動きをより正確に観察する事が出来る。小児において眼の動きを観察する事は重要である。立体視が存在しない場合には一様なrandom dot のパターンにしか見えないが、立体視が存在する場合にはその形が識別できるようになる。LangStereotestはTest1 とTest2がある。Test 1に描かれているパターンは猫(1200sec.arc の立体視に相当), 星(600sec.arc の立体視に相当) そして自動車(550sec.arc の立体視に相当)である。Test2 描かれているのは月、自動車、そして像である。それぞれの立体視は200, 400, 600 sec.arcである。星は単眼視でも見えるようになっている。
11. Frisby stereotest
Frisby stereotest は1970年に英国のFrisbyにより考案された比較的新しい立体視機能検査法である。この方法は他の方法にないいくつかの特徴を有している。Frisby stereotest は3枚の厚さの違うプラスチックプレートにより構成されている。プラスチックプレートの厚さは6mm, 3mm, そして1mmである。各プレートには4つの一辺4cmの四角形が印刷されている。その四角形の中には,Random dot 様の楔形のパターンが印刷されている。その中のひとつの四角形の中心に直径2.5cmの円形部分が表面でなく,裏面にパターンが印刷されている。被検者はその丸い部分がどの四角にあるかを答える事により、立体視の値が決定する。このFrisby stereotestは他の方法と異なり両眼視を分離させるために、赤—緑フィルターあるいは偏光眼鏡を必要としない。検査距離は30cm~80cm であり、即出来る立体視の範囲は20~630 sec.arc である。
Frisby stereotestが他の方法と異なるのは、プレートの厚さ,すなわち、深径覚が関与している事である。他の方法が両眼視を分離する事により、水平方向の像のずれを人為的に起こして、立体視を推定する方法とは明らかに異なっている。私どものクリニックにおいて約1000 症例において、Titmus StereotestとFrisby Stereotest を行い比較検討した。その結果Frisby Stereo Test 我Titmus Stereotestと比較し手よい値を示したのが、全体の60% であり、逆にTitmus Stereotestがよい値を示したのは20%であった。
こどもの立体視検査はひとつの測定方法に限定せず、原理の異なる方法でデータを取得して、比較検討する事も重要とおもわれる。
11. Frisby stereotest
Frisby stereotest は1970年に英国のFrisbyにより考案された比較的新しい立体視機能検査法である。この方法は他の方法にないいくつかの特徴を有している。Frisby stereotest は3枚の厚さの違うプラスチックプレートにより構成されている。プラスチックプレートの厚さは6mm, 3mm, そして1mmである。各プレートには4つの一辺4cmの四角形が印刷されている。その四角形の中には,Random dot 様の楔形のパターンが印刷されている。その中のひとつの四角形の中心に直径2.5cmの円形部分が表面でなく,裏面にパターンが印刷されている。被検者はその丸い部分がどの四角にあるかを答える事により、立体視の値が決定する。このFrisby stereotestは他の方法と異なり両眼視を分離させるために、赤—緑フィルターあるいは偏光眼鏡を必要としない。検査距離は30cm~80cm であり、即出来る立体視の範囲は20~630 sec.arc である。
Frisby stereotestが他の方法と異なるのは、プレートの厚さ,すなわち、深径覚が関与している事である。他の方法が両眼視を分離する事により、水平方向の像のずれを人為的に起こして、立体視を推定する方法とは明らかに異なっている。私どものクリニックにおいて約1000 症例において、Titmus StereotestとFrisby Stereotest を行い比較検討した。その結果Frisby Stereo Test 我Titmus Stereotestと比較し手よい値を示したのが、全体の60% であり、逆にTitmus Stereotestがよい値を示したのは20%であった。
こどもの立体視検査はひとつの測定方法に限定せず、原理の異なる方法でデータを取得して、比較検討する事も重要とおもわれる。
Ⅲ.不等像視
不等像視(aniseikonia)とは、両眼で知覚される網膜像の大きさに差がある状態の事をいい、通常は其の大きさの比(%)であらわす。不等像視は不同視を有する症例で多く見られるが、両者は必ずしも一次的な相関関係ではない。教科書的には1Diopter, Dの不同視は2.0~2.5%不等像視を起こし、頭痛や羞明、眼精疲労などの臨床症状を引き起こし、不等像視5%以上では両眼視機能を障害するとも言われている。
(参考文献)
不等像視の研究は米国では1940年代からAmesを中心とするいわゆるDartmouth学派が中心となり、Space Eikonometerなどの測定装置が開発された。我が国に於いても1950年代から保坂、加藤らにより活発な研究が行われてきたが、其の概念、測定法が難しく、また結果の解釈が確立していない事より、眼科領域で一般に行われるとは殆どない。Space Eikonometer以外の方法では、前記のPDH, Polatestを使用する事により、測定が可能である。近年粟屋により考案されたより簡単な直接法を使用したNew Aniseikonia Test(以下、NAT)により不等像視測定がより頻繁に行われるようになった事は喜ばしい限りである。2006年に勝海らはNATの考えをもとにして、大型液晶モニターとコンピュターグラフィックスを使用して新たな不等像視測定装置を開発した。我々はこの方法を用いて、主として遠視性不同視と有する児の不等像視について分析した結果、弱視眼の視力が正常範囲に到達しても、両眼の間に不等像視が存在すると良好な立体視が発達しない事を報告した。
良好な立体視の発達の妨げとなるのは、斜視の存在、不同視の存在があげられる。斜視の種類、治療法については此の項では触れないが、不同視も大きな原因と考えられている。不同視を有する児に対しては矯正において屈折の値だけに注意を払い、本来重要な不等像視を測定しない事がほとんどである。立体視の基礎となる両眼視の発達については、良好な両眼の視力、斜視、斜位が許容範囲内である事、に加えて両眼の網膜像の大きさがほぼ等しい事が重要である。網膜像が等しいこと(iseikonic)により、これが同時知覚された2つの網膜像の融像を可能にして、それをもとにして良好な立体視が発達するのである。

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